■そして、今シーズン

 辛い時期のお話でしたが、永井選手の表情は、決して暗いものではありませんでした。

「(昨季は)全日本の前から、『気持ちが続かないから、全日本が終わったら休もう』と思っていました。だからアイスショーとインターハイと国体は、申し訳ないのですけど休ませてもらったんです。

 1月には、友だちのお母さんのいるアメリカに半月くらい行って、いろいろな人に出会ったり、そのお母さんといろいろな話をしたりしました。凝り固まっていた考え方が、わりと自由な感じになったと思います。とても有意義でした。行かせてもらえて感謝です。ほかにも家族と出かけたりしたので、今シーズンはそういうものがスケートに出ちゃっているかもしれないけど、そういうのもありかなあと思っています」

 永井選手の高校3年生の秋から冬は、ジャンプが跳べないなかグランプリシリーズなどに参戦したスケートのシーズンと、大学受験、小学6年生のときから師事してきたコーチが外国に行ってしまうこと……そうした大きなものを一気に、すべて真正面から受け止めつづける時期になりました。
 そしてアメリカでリフレッシュしたあとの2月から、新しく中田誠人コーチに指導を受けています。

「(中田)先生はすごくサポートしてくださっていて、わがままに練習させてもらっていますね。きつく怒るわけではなく、注意するところはしてくれるので、頑張らなくてはいけないなと思っています。中田先生のところには佐上凌くんとか大矢里佳ちゃんとかもいるので、リンクに行くのがすごく楽しいです。関先生も、時々連絡をくれますね。この間も、東日本選手権で会いましたし。

 早稲田大学の社会学部に決めたのは、社学は自由だと聞いていたから。スケートは続けたかったし勉強もやりたいから、社学に行って、学びたいことを学べばいいかなと思ったからです。今日も、朝はリンクで練習して、1限でスペイン語の授業を受けてきました。高校の3年間は、リンクと家と接骨院とかしか行ってなかったんですけど(苦笑)、大学のスケート部の同期も4人いて、みんなすごくいい子なので、そういうのも含めて大学に来てよかったと思っています。

 今シーズンのショートプログラムは『レ・ミゼラブル』の『On My Own』で太田由希奈さんに振付けてもらいました。フリーは『オペラ座の怪人』で、鈴木明子さんの振付け。明子さん、この曲で滑っていましたよね。2人とも個性もあって本当に上手。このあいだ、『フィギュアスケートTV!』で自分の演技を見たんですけど、スピードも遅いし、手もへにょへにょで、やることは尽きないなと思いました(笑)。意識した滑り込みが足りないのかな。腰をちゃんと落として滑るのって疲れるし、それが今、足りていないな、と思います。だから、気持ちは元気だけど、スケートが元気かどうかはわからないですね(笑)。

 今は全日本前なので、ジャンプ中心に練習しています。ジャンプが1回転になったら全然点数にならないので、まず曲の中でジャンプを跳ぶ、っていうのをやらないといけないから。調子のいい時と悪い時の差が激しいので、最低ラインを上げようと思ってやっています。調子がいい時は、3回転ルッツ+3回転トウループも結構跳べるんですけど、ダメな日は(ジャンプのときに腕を)締められる兆しがなくて怖くて、ダブルアクセルまでしか跳べなかったりします。

 ジャンプ以外にも、やりたいことはたくさんあって、今季、あまりレベルを取れていなかったスピンとステップを全日本までにできたらいいなとか。あとは、今、体力的にきついと感じているので体力もつけたいし、つなぎとかもやりたい。やることがたくさんで、間に合わないかもしれないんですけど(笑)」


 ジュニアグランプリファイナルに出場したり、スケートカナダで表彰台に乗ったりしていた2~3シーズンほど前のことも、今の状況も、永井選手は、とても現実的に理知的に受け止めているようでした。

「大きな試合に出られてありがたいなと思ってはいたんですけど、中学2年生の時からジュニアグランプリに出るようになったので、グランプリなどもその延長線上にあったというか、ものすごく特別な試合に出ているっていう感じはしていませんでした。でも今テレビで見ていると、すごいところに立っていたんだなって思います。(2015年のスケートカナダでの銅メダルは)運がよかったなって。運がよかったのもあるし、なんていうんだろう、まあまあ頑張っていたかなあ、みたいな感じです(笑)。もう一度ああいう試合に、という気持ちになれるときもあるけど、ジャンプが全然跳べなくて一生無理だと思うときもあるので、まずは一歩一歩だと思っています。いろいろな積み重ねをしていかないといけない。だから今は、そうした場所を見ているというよりは、『今できることは何かな』みたいな感じです。

 これまでは、朝練して、学校に行って、また練習して寝る、っていう生活を超普通だと思っていたし、それなのにスケートの調子が悪いなんて最悪だ、と思っていたんですね。なんていうか、自分がやっていることを低く評価しがちというか完璧主義なところがあるので、多分それで、上を見すぎちゃう部分があるんですよね。でも大学に入ったら、全然授業に来なくて遊んでいる子とかがいて、それを考えたら、『スケートを続けているだけいいのかもしれない』と思うようになったし、続けているんだったらちゃんと、『自分のやっていることは何だろうな、って考えよう』と思い始めたんです。そうやって考えて『頑張っている』と思ったら、『もっと頑張ろう』と思えますしね。

 全日本では、ちゃんとフリーまで行って、笑顔で試合を終われたらいいなあって思っています。去年は、この世の終わりみたいな気持ちになったから、1年で気持ちがこれだけ変わったよ、みたいなものを、自分で感じられたらいいなと、今、思っています」

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その全日本選手権は、今週開幕します。
東日本選手権1位の永井選手は、ショートプログラムの後半グループでのスタート。
昨季は涙で終わった大会でしたが、今年は、フリー後の笑顔を楽しみにしたいです。

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<永井優香選手のプロフィール>
エレガントで、力のあるスケートが魅力的な選手。高校1年生(2014-15シーズン)の時には、初出場の全日本選手権で4位、四大陸選手権で6位となり、高校2年生(2015-16シーズン)で本格的にシニアにデビュー。そのシーズンのスケートカナダでは3位と、表彰台に乗りました。現在は、早稲田大学1年生。スケート部にも所属して、スケートと大学の勉強を両立しています。